将棋ソフト指しについて

白石市将棋普及指導員の小野です。
将棋界における「ソフト指し」は、プレイヤーにとって非常にデリケートかつ重要なトピックですね。単なるマナーの問題を超えて、対局の公平性やコミュニティの存続に関わる大きな課題となっています。現状を整理して解説します。
1.ソフト指しとは
オンライン将棋(将棋ウォーズ、将棋クエスト、81Dojoなど)や公式棋戦において、自分の頭で考えず、将棋AI(ソフト)が提示した最善手をそのまま指す行為を指します。
動機:勝率を上げたい、段位を上げたい、負けるのが悔しいといった承認欲求が主です。
現状:現在のAI(水匠、dlshogiなど)はプロ棋士を凌駕する実力があるため、ソフトを使えば誰でも「人類最強クラス」の指し手が指せてしまいます。
2.なぜ「悪」とされるのか
将棋は「思考の格闘技」であり、互いの知恵を絞ることに価値があります。ソフト指しは以下の点で問題視されています。
公平性の破壊:努力して実力をつけたプレイヤーの達成感を踏みにじる行為です。
プラットフォームへの損害:ユーザー離れを引き起こし、対局サイトの運営を困難にします。
アカウント停止(BAN):ほぼ全てのサイトで利用規約違反とされており、検知されると即座にアカウントが削除されます。
3.運営側の対策
最近の対局サイトの検知技術は非常に高度です。
一致率の算出:AIの推奨手と指し手がどれだけ一致しているかを統計的に解析。
指し手の不自然さ:序盤から終盤まで一定の間隔で指し続けるなど、人間離れしたリズムを検知。
過去のデーター照合:以前の棋力と急激な変化がないか、複数のソフトを使い分けていないかを分析。
「一手だけソフトに聞く」といった行為も、現在の解析技術では累積データから特定される可能性が非常に高いです。
4.プロ棋戦におけるルール
2016年の「将棋ソフト不正疑惑騒動」以降、プロの対局場では厳格なルールが敷かれています。
・対局場へのスマートフォンの持ち込み禁止。
・対局中の外出禁止、電子機器を預けるロッカーの使用義務化。
・抜き打ちでの金属探知機検査。
将棋AIは、対局後に自分の対局を振り返る「検討」に使う分には、これ以上ない最高の師匠になります。「対局中は自分の力で、終わった後はAIと共に」というのが、現代将棋の最も健康的で強くなれるスタイルですね。
ソフト指しの特徴
将棋ソフト指しを行っているプレイヤーには、人間同士の対局では現れにくい特有の違和感が生じることが多いです。
運営側が検知に使うデータや、対局者が「怪しい」と感じる主な特徴を、技術面と心理面から解説します。
1.指し手の「一致率」が異常に高い
これが最大の証拠となります。
最善手の一致:難解な中盤や終盤の局面で、プロでも数十分考えるような「唯一の勝ち筋」を数秒で指し続ける。
悪手のなさ:人間なら誰でも犯すような「うっかり」や、形勢を損ねるミスが全くない。
一貫性:序盤から終盤まで、AIが示す評価値が一度も下がることなく、ジワジワと、あるいは一気にリードを広げていく。
2.指し時間(リズム)の不自然さ
人間の思考プロセスとは異なる消費時間が目立ちます。
一定のリズム:どんなに簡単な一手(駒を取り返す、王手から逃げるなど)でも、逆にどんな難しい局面でも、常に5~10秒程度で指すといったケース。これはソフトの画面を見て自分のスマホで入力するまでの「物理的なタイムラグ」です。
ノータイム指しの欠如:人間なら直感で0秒で指すような手でも、確認のために数秒かかる。
考慮時間の偏り:難しい局面で長考せず、AIが計算を終えるのを待つだけの時間で指し進める。
3.人間味のない「不可解な手」
AI特有の、人間には理解しがたい、あるいは勇気のいる手が混ざります。
自陣への無機質な駒打ち:恐怖心がないため、人間なら怖くて打てないような自陣の隙間を埋める守備の手(しかもそれが最善)を平然と指す。
大局観の欠如:「駒得」を徹底的に追及したり、逆に「駒を捨てて速度を計算」したりする際、人間的な感覚(怖い、もったいない)を完全に無視した最短ルートを選ぶ。
勝ちを急がない:確実に勝勢のとき、人間なら早く終わらせようと攻め急ぐところを、AIは「最も相手にチャンスを与えない(が、非常に地味で長い)」手順を選び、なぶり殺しにするような展開になる。
4.段位と実力の不一致
序盤の拙さと中終盤の強さ:序盤は定跡を知らずボロボロなのに、中盤から突然「神がかり的」な指し手になり逆転する。
対局履歴の異常:勝率が9割を超えている、あるいは特定のアカウント(高段位者)にだけ全勝しているなど。
5.マナーや態度の不自然さ
長考後の即指し:相手が長考している間、自分はソフトに入力して待機しているため、相手が指した瞬間に(どんな複雑な手でも)即座に最善手で返してくる。
注意点:冤罪(えんざい)の可能性
最近ではアマチュアのレベルも非常に高く、AIで熱心に研究している人は、AIのような鋭い手を連発することがあります(いわゆる「研究が嵌まった」状態)。
一局単位では判断できない:たまたま絶好調だったり、得意な形だったりすることもあります。
運営の判断:将棋ウォーズなどの大手サイトでは、一局のデータだけでなく、過去数百局の統計データを用いて、数学手に「人間には不可能」と証明された場合にのみBAN(アカウント停止)を行っています。
「ソフト指しではないか?」と疑われることは、純粋なプレイヤーにとって最大の不名誉です。だからこそ、疑わしいと感じても直接問い詰めたりせず、「通報ボタン」を押して運営の高度な解析に任せるのが最も賢明な対応です。
